お腹の中でイノシシが暴れる?

2019.11.25

古代、中国の書に「奔豚(ほんとん)」という病態が記されています。内容はと言いますと、「奔豚という病気は、下腹部から咽喉部にせりあがってくるような苦しさで、死ぬほどつらいがただちに止む。これは驚きや恐怖から引き起こされたものである」というものです。

 

現在でいうパニック障害の症状に酷似していますが、古人はこれを「お腹の中でイノシシが暴れる」と表現し、「奔豚」と名付けたのでしょう。

 

実際、現代では多くの方がこの「奔豚病」を抱えておられるわけですが、しばしば聞かれる訴えとしては、

 

「ムズムズするような感覚が、お腹から胸に向かって上がってくる」

「みぞおちから胸のあたりがジワ~と熱くなり、それからドキドキが始まる」

「上腹部に熱い球のようなものが現れて、それが胸に上がってくる」

「突然、胸の真ん中にタバスコを撒かれたような感覚があり、そこからそわそわドキドキが止まらなくなる」

「宝くじが当たった!というようなムズムズソワソワした感じが、下腹部から背中に向かって上がってくる」

など様々です。

 

当然これらに有効な漢方処方も存在しています。

 

まずは苓桂甘棗湯。動悸を強く押さえます。エキス剤では苓桂朮甘湯に甘麦大棗湯を併せます。

 

顔がのぼせて赤くなる場合は桂枝加桂湯。エキス剤では桂枝湯に桂枝加竜骨牡蛎湯を併せます。

 

熱のふけさめがある場合は奔豚湯。エキス剤では葛根湯に小柴胡湯、さらに四物湯を併せます。

 

ときに難治を極めるパニック障害の治療に是非お役立ていただきたい処方です。

 

悠 心身クリニック  中澤 武志